「あの日」の気持ちに立ち返る ~今を大切にするための備え~
いつかお別れする日が来る前に
ペットと一緒に暮らすということ。それは、かけがえのない素晴らしい時間です。共に過ごした人だけが実感できる大切な日々。
そんな幸せな毎日の中で、「いつかお別れの日が来る」ということを考えるのは、胸が痛み、できれば考えずにいたいと思ってしまうかもしれません。
それでもこのテーマに触れることは、悲しみの準備というよりも、当たり前のように感じているこの貴重な日々を、あらためて大切にするための、ひとつのきっかけなのです。

家族になった日
初めてその子をお迎えした日のことを、覚えていますか。
おぼつかない足取りで一生懸命こちらに近づこうとする小さな姿。震えて動けずに片隅に縮こまった姿。
その子を家族に迎え入れると決めた日。「この子と一緒に生きていこう」と、喜びの中でそっと心に誓った日。
「大切に育てていこう」「できるかぎりのことをしてあげよう」「どんなときも守ってあげたい」「最期まで、この子の一生に寄り添っていこう」。そんな思いを胸に抱いた一日だったのかもしれません。
けれど今は、忙しい毎日の中で、一緒にいることが当たり前になりすぎて、あのときの気持ちを思い出すことはそう多くないのかもしれません。
それでも、ときどき立ち止まって、初めて家族に迎えた日の気持ちにそっと思いを馳せることも、大切な時間になります。
こうした思いは、個人の気持ちにとどまらず、環境省でも「動物を飼うことは命を預かること。ペットを飼うことは、その一生に責任をもつこと」と啓発されています。

大切なことは、日々の暮らしの中で、その子の健やかな毎日を支えること。そうした思いやりの積み重ねが、うちの子にとっての幸せであると同時に、家族にとっての幸せにもつながっていきます。
なぜ今、考えるの?
いざというとき、私たちは動揺し、気持ちが追いつかず、落ち着いて考えることが難しくなることがあります。
たとえば、治療についての選択や、お別れのかたちについて考えることなど、短い時間の中でいくつもの重要な判断に迫られる場面が訪れることがあります。
そうしたとき、うちの子が大切であればあるほど迷いが生じ、咄嗟には「本当はこうしてあげたい」という気持ちに、気づけないこともあるかもしれません。
だからこそ、元気な今のうちに「もしも」のときに備えておくことが、いざという場面での心の負担を、少しでも和らげてくれることもあります。
治療という面では、信頼できるかかりつけの動物病院の存在が、大きな支えになります。
日頃から信頼関係を築いておくことで、獣医師や愛玩動物看護師は、病気の治療だけではなく、子犬や子猫の成長のことも、年齢を重ねた変化のことも、そしていつか訪れるお別れの場面でも、寄り添ってくれる心強い存在になってくれます。

動物病院スタッフとの信頼関係があれば、「こんなこと聞いていいのかな」と迷うようなささいな不安や疑問についても、気軽に相談しやすくなります。
また、夜間救急・24時間対応の動物病院や夜間救急相談窓口についても、事前に調べておくことで、いざというときの安心材料になります。
あたりまえの日常を大切に
このような、「もしも」への備えと同時に、共に過ごす貴重な時間をあらためて大切にすることも、とても大事なことです。
おそらく、日頃からペットのことを大切に想っている方が、この文章を読んでくださっているのだと思います。
それでも、ときには意識して目の前にいるその子に集中してみてください。
名前を呼ぶとこちらに振り返ること。駆け寄ってきてくれること。そうした何気ない日常のひとときが、かけがえのない瞬間なのです。
忙しい毎日の中では、うちの子とゆっくり過ごす時間がなかなか取れないこともあります。それでも、一緒に過ごす時間の「長さ」ではなく、共にあるひとときをやさしく味わうことが大切なのかもしれません。
人の家族との関係とは少し異なり、ペットとのふれあいには、撫でたり、抱っこをしたりといった、身体的な触れ合いが多いことも特徴のひとつです。
そうした触れ合いの中で感じるぬくもりや、匂い、肌触り、息づかいは、言葉を交わさなくても、たしかに心が通っていることを実感させてくれます。
だからこそ、ほんの一瞬でも意識して触れ合う時間をつくることが、お互いにとって、かけがえのないひとときになります。
うちの子にとっての幸せは、いつも特別な出来事の中にあるわけではありません。おいしいごはん、快適に眠れる寝床、安心して過ごせる居場所があること。
それ以上に、大好きな家族と暮らすこと。そうした健やかな日常の積み重ねが、うちの子にとっても、家族にとっても、何よりの幸せなのです。




