虹サポート 専門家がお伝えする看取りと心のケア

公開日 : 2026.07.24 最終更新日 : 2026.07.27

グリーフ(悲嘆)を理解する ~心と身体に起こる反応~

「グリーフケア」への理解

グリーフという言葉を聞いたことがあるでしょうか。大切な存在を失ったときの深い悲しみを、グリーフ(悲嘆)といいます。

グリーフは時間の経過とともに自然に変化していくものと考えられがちですが、その過程における感じ方や歩み方は人それぞれです。
適切な理解や支えがあることで、悲しみを一人で抱え込まずにすむことがあります。

こうした関わりを「グリーフケア」といいます。

ペットロスのグリーフケアを担うのは、心の専門家だけではありません。家族や友人、動物病院スタッフ、葬祭関係者、そして同じようにペットとの別れを経験した人など、さまざまな存在が支えとなります。

だからこそ、グリーフケアを受ける人は、いつか誰かに寄り添う側になることもあるのです。

グリーフとは何か

では、そもそもグリーフ(悲嘆)とはどのようなものなのでしょうか。

大切な存在との別れを経験したとき、多くの人が深い悲しみに陥ります。大切な人やペットを喪失したとき、人は同じような悲嘆の心理過程をたどると言われています。

しかし、その感じ方やあらわれ方には個人差も大きく、人はそれぞれ、さまざまな悲しみや心の揺れを体験します。

大切な存在を失ったときに経験する、こうした心や身体に生じるさまざまな反応を、グリーフといいます。

それは特別なことではありません。
ペットを愛し、ともに暮らしてきたからこそ経験する悲しみであり、自然に生じる心の痛みなのです。

ペットとの別れには、「死別」と「離別」があります。死別の原因もさまざまで、老衰、病気、安楽死、事故死などが挙げられます。また、病気で亡くなる場合でも、症状や経過、闘病期間、看護や介護の時間はそれぞれ異なります。

こうした状況の違いは、悲しみの強さや長さにも影響するといわれています。

グリーフの現れ方もまた、人それぞれです。泣く、胸が締めつけられる、胃が痛む、不安感、倦怠感や疲労感、眠れない、食べれないといった身体の不調としてあらわれることもあります。

また、悲しみや怒り、憂うつ、罪悪感、不安、孤独といった感情として経験することもあります。ときには、喪失の出来事について誰かを責めたくなる、恨みや困惑、自信喪失、絶望感、無力感など、さまざまな心の痛みとしてあらわれる場合もあります。

さらに、人との関わりを避けたくなったり、引きこもりがちになったり、孤独感や疎外感を感じるなど、周囲との関係のなかであらわれることもあります。

こうした反応は決して特別なものではなく、大切な存在を失ったときに多くの人が経験する自然な反応です。

また、喪失の現実を受け入れようとする過程で、心のなかで取引をするような思いが生まれたり、愛する存在の死に意味を見いだそうとしたりすることもあります。亡くなったうちの子が夢に現れるなど、どこか超自然的に感じられる体験をする人もいます。さらに、葬儀などの終わりの儀式を行いたいと強く思うこともあります。

こうした心の動きも、精神的なグリーフのあらわれのひとつです。
これらの体験も、喪失の現実と向き合いながら、心が少しずつ適応しようとする自然な過程と考えられています。

ただし、これらのすべてを経験するわけではありません。どのような反応が現れるかは人それぞれであり、あるグリーフの反応を経験する人もいれば、そうでない人もいるのです。

ペットロスの悲嘆の心理過程

ペットが亡くなったとき、多くの人がまず「信じられない」「信じたくない」と思います。

あまりにもショックな出来事のため、ペットが亡くなったという事実を受け入れることができず、心がそれを否定しようとするのです。

何も考えられない、何も感じられず放心状態に陥る場合もあります。このような反応は、ペットが重い病気であると告げられたときにも起こります。

こうした心の動きは決して異常なものではありません。

あまりにも大きな衝撃を受けたとき、人の心はその事実をすぐに受け入れず、距離を置くことで自分を守ろうとします。喪失の事実を一時的に否認することで、心が壊れてしまうのを防ごうとする自然な働きなのです。

「本当に亡くなってしまったのだろうか」
「どこかに生きているんじゃないのか」

しかし、時間が経つにつれて、少しずつ「もういない」という現実を認めざるを得なくなっていきます。

ペットが亡くなったという事実を受け入れていくことは、悲しみから回復し、新しい生活に適応していくための大切な過程でもあります。けれど同時に、それはペットとの別れを強く意識することでもあります。

「もういないという現実に、どうしようもなく悲しくなる」
「あの子のそばに行きたいと思ってしまう」
「もう一度だけ、抱きしめたい」

現実を受け入れようとしても、引き戻され、再び強い悲しみが押し寄せてくることがあります。ときには、最期の瞬間の記憶がフラッシュバックのようによみがえり、心を苦しめることもあります。

多くのご家族にとって、この時期は最もつらい時間だと感じられます。

また、ペットを失った人は、悲しみとともに怒りや自分を責める気持ちに襲われることもあります。どれだけペットを大切にしていたとしても、多くの人が罪悪感や自責の念を抱きます。

子どものように大切にしてきた存在を守れなかったという思いから、自分を責めてしまうのです。

こうした怒りや自分を責める気持ちは、抑うつ的な状態と関係することもあります。気分が落ち込み、何もやる気が起きなくなったり、体調を崩したり、人と関わることが難しくなったりすることもあります。
なかには、「どうにかしてあの子を取り戻したい」という思いで頭がいっぱいになる人もいます。

なぜ、これほどまでに苦しくなるのでしょうか。

「こんなにつらいなら、最初から飼わなければよかったのではないか」
そう思ってしまうほど、深い悲しみに包まれることもあります。

けれど、人は悲しみながらも、少しずつペットのいない日常に慣れていきます。ペットのことを思って泣き、また日常生活に戻り、そしてまた悲しむ。

このように悲しみと日常のあいだを行き来しながら、少しずつ心は変化していきます。
悲しみに向き合う過程(グリーフワーク)と、新しい生活に適応していく過程を、揺らぎながら行ったり来たりします。

その歩み方や時間の長さは人それぞれで、数週間の人もいれば、数か月、あるいはそれ以上かかることもあります。また、喪失の原因や闘病の期間なども、悲しみの深さに影響するといわれています。

愛情を注いだ分だけ、悲しみも深くなります。けれど、ペットに精一杯愛情を注ぎ、ともに幸せな時間を過ごしてきたことこそが、やがてご家族の悲しみを支えてくれる力にもなります。

悲しみや寂しさ、悔しさが入り混じる中で、うちの子との思い出を大切にしながら、自分とうちの子だけの物語を静かに紡ぎ、関係をあらためて結んでいくのです。

その過程で、現実にはもう目の前にはうちの子はいないけれど、うちの子との絆は続いていることに気づき感じていく瞬間が訪れるかもしれません。

うちの子のことを思い出したとき、かつての悲しみや苦しみは少しずつ和らいでいき、やがて、楽しかった時間や温かい思い出が悲しみや苦しみを包んでくれるようになるのです。

うちの子は心の中に生き続け、思い出すたびにそっと会える存在となっていきます。そして、これからの人生を見守ってくれるように感じられることもあるでしょう。

うちの子と過ごした日々を振り返るなかで、うちの子が与えてくれたものや、いのちの大切さにあらためて気づくことがあります。
また、同じように悲しみを経験した人の気持ちに寄り添えるようになるなど、人としての深まりを感じることもあります。

ペットとの別れはつらい経験ですが、その経験は、やがてその人の人生の中で大切な意味を持つ出来事として位置づけられていくこともあるのです。

大切な存在との別れは深い悲しみを伴います。けれど、うちの子とともに過ごした時間や思い出は、これからもご家族の人生の中で静かに生き続けていきます。

そして、その絆は形を変えながら、これからも続いていくのです。

濱野佐代子(はまのさよこ)

著者濱野佐代子(はまのさよこ)

日本獣医生命科学大学 全学教育センター・人と動物のWell-being 心理学分野 教授

 

獣医師であり博士(心理学)や公認心理師の資格も持つ「人と動物の心のスペシャリスト」。

 

ペットの介護への不安や、ペットロスの悲しみに長年向き合い、飼い主さまの心のケアやカウンセリングに力を注がれています。

専門は人と動物の関係学やグリーフケア。

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