虹サポート 専門家がお伝えする看取りと心のケア

公開日 : 2026.07.24 最終更新日 : 2026.07.27

「老い」のサインと向き合う ~変わりゆく愛しい姿を支える~

日常の小さな変化

犬や猫は、その愛らしい仕草や様子、そしてお世話が必要な存在であることから、家族の一員として、ときに「子どものような存在」と感じられることもあります。

「いつまでも変わらない、子どものようだ。」そんなふうに思ってしまうこともあるかもしれません。けれども、ペットは私たち人間よりも、ずっと早いペースで年齢を重ねていきます。

その変化は、ある日突然あらわれるというよりも、日々の暮らしの中で、少しずつ目についてくることが多いものです。

たとえば、階段の上り下りが難しくなったり、歩くスピードが遅くなったり、呼びかけへの反応が鈍くなったり。以前はできていたことでも、できなくなる場面に遭遇することが少しずつ増えていくかもしれません。

そうした変化に気づいたとき、私たちはうちの子の「老い」を感じたり、目を向けるのが辛くなってしまったりすることもあります。

けれど、その「老い」という現実や、ちょっとした体調の変化に気づくことができるのは、いつもそばで見守っているからこそでもあります。だから、その変化に目を向けたこと自体が、大切な気づきなのかもしれません。

「いつもと違うな」「気のせいかな」「こんなことで相談してもいいのかな」と思ってしまうかもしれません。

それでも、早めにかかりつけの動物病院に相談してみることは、うちの子の健やかな毎日を守るための、大切な選択のひとつです。

変化が加齢によるものの場合もあれば、体調の変化や病気が関係していることもあります。気になったときには、信頼している獣医師に相談してみてください。

迷いの中で選ぶということ

ペットの体調の変化や、年齢を重ねていく過程の中で、私たちはさまざまな場面で迷いながら、選択を重ねていくことになります。

「できるだけ長く一緒にいたい」という切実な願いとともに、「できるかぎりのことをしてあげたい」「幸せにしてあげたい」そんな思いが胸にあふれてくることもあるかもしれません。

とくに、治療に向き合う場面では、私たちは、より慎重に選択を重ねていくことになります。

動物病院では、獣医師が病状や治療法の選択肢、今後の見通しについて、できるだけ分かりやすく説明してくれます。その説明をもとに、ご家族が治療の方針を考えていくことになります。

納得のいく選択をするためには、分からないことや不安なことをそのままにせず、率直に質問できるような獣医師との信頼関係が、大きな支えになります。

そうした意味でも、ペットが元気なうちからかかりつけの動物病院を持っておくことが、いざというときの安心感につながります。

選択には、はっきりとした正解や不正解があるわけではなく、どのような選択をしたとしても、迷いや後悔の気持ちが残ってしまうこともあります。それは、うちの子のことを大切に想っているからこそ、生まれてくる気持ちでもあります。

だからこそ、そのときどきで、自分なりに納得のできる考え方を持つことが、心の支えになることもあります。

また、一人で抱え込まずに、信頼できる家族や友人と気持ちを分かち合うことも、大切なことなのかもしれません。

「看取り」とペットロス

いつか訪れるお別れについて、うちの子が元気なうちから思いを巡らせることに、抵抗を感じる方も多いかもしれません。

けれど、最期の時間をどのように過ごしたいのか、どんなふうにうちの子に寄り添いたいのかを、ほんの少しでも心の片隅に置いておくことは、いざというときに自分なりに納得のいく選択を考えるための、ひとつの手助けになることもあります。

それは、うちの子のためにしてあげたいことを、できるかぎり形にしていく機会につながるかもしれません。

看取りのかたちに正解はありません。どのような選択にもその人なりの思いがあります。具体的な考え方や事例については、この後の記事であらためて紹介します。

大切なペットをお見送りした後の悲しみは、想像以上に深く、長く続くことがあります。ペットロスと呼ばれるその悲しみは、特別なことではなく、大切にしてきたペットを失った、誰しもが経験する自然な気持ちです。

ペットロスについて、その向き合い方についても、この後の記事で詳しくご紹介します。

別れを考えることは、今を大切にすること

別れのことを考えるのは、目の前にいるうちの子を裏切るような気持ちになり、胸が締め付けられることもあるかもしれません。

けれど、出会いから今日まで、そしていつか訪れるお別れまでを思い描くことは、うちの子と歩んできた時間や、うちの子の一生に、そっと向き合うことでもあります。

いま目の前にいるうちの子と過ごす時間が、どれほど大切で、かけがえのないものなのかを、あらためて感じるきっかけにもなります。

だからといって、無理にそれらを考える必要はありません。考えられないときがあっても、それで大丈夫です。

いつものお散歩道。ふたりで見上げる青空。お気に入りのおもちゃ。窓から眺める景色。ふわふわの肌触り。甘える声。
そんな日常のひとつ、ひとつが、かけがえのない時間なのです。

うちの子の好きなこと、喜ぶことはなんでしょうか。小さなことでいいのです。

それを、今日この後、そっと一緒にやってみませんか。

濱野佐代子(はまのさよこ)

著者濱野佐代子(はまのさよこ)

日本獣医生命科学大学 全学教育センター・人と動物のWell-being 心理学分野 教授

 

獣医師であり博士(心理学)や公認心理師の資格も持つ「人と動物の心のスペシャリスト」。

 

ペットの介護への不安や、ペットロスの悲しみに長年向き合い、飼い主さまの心のケアやカウンセリングに力を注がれています。

専門は人と動物の関係学やグリーフケア。

  • X(Twitter)
  • Facebook
  • LINE